本当の孤独は「自分が孤独である」と口にする必要すらも無くなり、しかもその事を語る相手すら居ない。
外界と自己内部の境界線が段々と曖昧になっていく。二つは肌を重ねながらゆっくりと夜に溶けていく。最早音楽が自己の内部にあるのか外部にあるのか分からない。本来それは何にも捕らわれない自由の身であるのに、愚かな僕たちはそれを自分の手元に治めないと理解できないもんだから。

僕たちのすごいところは多分そう言うところにあるのかもしれない。形ない物に概念を持たせる。命を吹き込む。それにより生じる皺寄せがどこかで発生しようとも。でもすごいことをしているけれどどこか愚かだから皺寄せを伸ばす方法を天才しか知らない。あまつさえ僕たちはそれを放棄する。

単なる一定の周波数に従って少しばかりの空気の振動、物質の数学的振動、空間の微細な揺らぎに僕たちは涙を流す。
目に見える物と目に見えない物の間に確かに存在する絶対的均衡に従って、死者が黄泉のくにから音を連れてくる。音楽の余計な贅肉を落として、裸の僕をあらゆる五感を通して緩やかに優しく犯していく。

今の僕は暗闇のなかを手探りで歩き回る獣そのものだ。夜明けの光を求めている。自由で美しく光るグロテスクな生々しい臭いに満ち溢れたそれを四つん這いになって探している。だが、夜明けもまた夜に属し、長いこと見つめる事が可能な人間にだけに開かれる内的光景の鋭さが確かにある。はっきりとそれを見るために僕らはまだ暗闇に佇んでいる沈黙する壁の前をさ迷う必要がある。僕はだから夜を嫌いになる事ができない。