また会おう

僕の中の街が死ぬ。10年の時を経て。

見上げた夜空にはそこかしこに光。西の空に大きな金星。結局最後まであの等間隔に並ぶ星の名前が分からなかったな。星にもちゃんと色があって、なんだか皆が弱々しくも「僕はここにいるよ」って問いかけてきている。小さく震えたその瞳が、温もりが、生きてる何よりの証拠で。こんなにもかけがえのない大事なもので。星からしてみたらたった10年っていう短い時間だけど、それでも僕の幾つもの願いを聞き入れてくれた。

そんなことを思うと、もうなんだか涙が止まらなかった。

 

明日僕の中の街が死ぬ。ありがとう、僕の一番愛していた街。また会おう。

 

本当の孤独は「自分が孤独である」と口にする必要すらも無くなり、しかもその事を語る相手すら居ない。
外界と自己内部の境界線が段々と曖昧になっていく。二つは肌を重ねながらゆっくりと夜に溶けていく。最早音楽が自己の内部にあるのか外部にあるのか分からない。本来それは何にも捕らわれない自由の身であるのに、愚かな僕たちはそれを自分の手元に治めないと理解できないもんだから。

僕たちのすごいところは多分そう言うところにあるのかもしれない。形ない物に概念を持たせる。命を吹き込む。それにより生じる皺寄せがどこかで発生しようとも。でもすごいことをしているけれどどこか愚かだから皺寄せを伸ばす方法を天才しか知らない。あまつさえ僕たちはそれを放棄する。

単なる一定の周波数に従って少しばかりの空気の振動、物質の数学的振動、空間の微細な揺らぎに僕たちは涙を流す。
目に見える物と目に見えない物の間に確かに存在する絶対的均衡に従って、死者が黄泉のくにから音を連れてくる。音楽の余計な贅肉を落として、裸の僕をあらゆる五感を通して緩やかに優しく犯していく。

今の僕は暗闇のなかを手探りで歩き回る獣そのものだ。夜明けの光を求めている。自由で美しく光るグロテスクな生々しい臭いに満ち溢れたそれを四つん這いになって探している。だが、夜明けもまた夜に属し、長いこと見つめる事が可能な人間にだけに開かれる内的光景の鋭さが確かにある。はっきりとそれを見るために僕らはまだ暗闇に佇んでいる沈黙する壁の前をさ迷う必要がある。僕はだから夜を嫌いになる事ができない。

心のなかを掻き乱されたようで、言葉一つでこんなにも全身から力が抜けていく。

今まで何人もの人が過去を変えたいと星に願ってきたのだろう。その願いを星はいくつ叶えてきたのだろう。
僕らは決して戻れないし、年を重ねるごとに固められてしまう歪さに苦しむと分かっていても尚、前進を止められない。

過去を変えたいのは何故?

どうしてこんなにも言葉にがんじがらめになっているのだろう。まるで楽譜みたいじゃないか。これは音階か何かか?

もう本当に、君と僕は出会わなければ良かったよ。こんなにも苦しい想いを背負わされるぐらいなら最初から無かったことにしよう。無駄な足掻きだと分かっているけど、今夜だけは星に願わせてほしい。


もし叶ったらもうこの恋は終わりにしよう。そうしたら僕はもう夜を寂しく感じなくなるはずだし、風呂場で咽び泣くこともなくなるし、湯船に潜って叫ぶこともなくなる。君に毎日殺される心配もしなくていいし、何より傷つくことがない。

みんなみんな変わっていく。ただ変わらないのは夜空に浮かぶ月と星だけだ。女の子の気持ちを代弁するような歌は死んでほしい。救われたような気になっている一時の心の揺るぎを許容した星も死んでほしい。いやもう死んでいるのかな。だからあんなにも美しく光っているのかな。

星に願い事をしている僕を大人たちは馬鹿にしていた。そんな何億光年っていう気の遠くなる存在に何を打ち明けようか。そんな無駄なことをするならもっと他に考えることがあるでしょう。ちゃんとしなさい。きちんとしなさい。そんな台詞で僕らを丸め込んだ気になっている彼らは、本当はきっと昔は星とお話していたはずなのに。僕もいつか彼らのような存在に変わるのかな。そして星に願い事をしている奴を丸め込む役割が回ってくるのかな。

君もいつか大人になってしまうのかい?